

閉店が決まっている店舗の運営を任された山口。その成果次第で新しく立ち上がる店舗を任すと約束される。入社1年目の終わり頃のことだった。
配属された店舗が、あと3カ月でクローズすると決まったとき、支社長から「3カ月間でお客さまに後ろ髪引かせる思いをさせることができたら、次の新店舗の運営を任せる」と言われたんです。僕は3カ月間必死に頑張りましたね。その後、店舗は予定通り閉店することになったのですが、そのときの活動が認められて約束通り新店舗を任されることになりました。だけど、立ち上げということもあって、分からないことだらけで。ブロック長や直属の上司などに「もっとしっかりスタッフをまとめなさい」「お客さまを満足させなさい」と指導されるとともによく叱られました。毎回毎回うるさいなぁと思っていましたが(笑) いま思えばあれは愛情ですね。
支社長との「男の約束」を守り通したことで、新たな挑戦をすることになった。新しく任された店舗がまた同じように閉店という悲しい運命をたどることがないようにと、お客さまの心をつかむ独自の接客をやり続けた。
僕は、来てくれたお客さまに何かひとつでも印象を残したいという一心で接客をしました。たとえば、お刺身を出すとき一緒に醤油も差して、食べるときに醤油で洋服が汚れないようにひざ掛けを渡したり、トイレから戻ってきたら新しいおしぼりを渡したり。お帰りのときには、「お忘れ物がございます。私のお気持ちをお忘れでございます」と言ってお花を渡したりして(笑) 思いついたらすぐ行動を起こすタイプなので「毎回おしぼりいらないんじゃないの? お客さまは本当に望んでることなの?」と周りから言われることもあったけど、お客さまの印象に残ったら、それだけでも十分価値があると思ってやり続けました。
まるで自分の彼女にするような気持ちで、印象を残す接客を続けた。会計が終わって帰るときに「お忘れ物が…」と言われて花を渡されれば、家に帰っても花を見るたびにお店や山口を思い出すかもしれない。見事新店舗を軌道に乗せることができた彼は、すべての運営を任せ、経験を積ませてくれた大庄に恩返しをしたいと考え始めていた。そんな矢先、成績の悪い店舗の再建を任されることになる。
独立の夢を叶えられたら90%、娘が自分のお店でアルバイトをして、息子がお店を継いでくれたら100%です。
大庄にはお世話になっていて、何か恩返しをしていたいと考えていたので、再生店舗の話が来たときは嬉しかったですね。新たに任されたお店の業績が悪かった原因は、慢性的な人員不足と従業員のモチベーションが低いことでした。だからまずはみんなの意識を変えるためにも、毎日営業に出かけて、お客さまを満足させるための努力を繰り返しましたね。ここでも上司からのアドバイスをもらいながら、できることは何でもやりました。後から聞いた話によると、僕の姿を見て、みんな刺激を受けたそうです。しばらくして結局そのお店は閉店してしまったけど、半年かけて前年比130%まで業績を上げることができたので、これで少しは会社に恩返しができたかな、と思っています。
できることは何でもやりながら、業績の悪い店舗の改善に取り組んだ山口。業績低迷の理由は、「立地」などではなく「人」だと言う。山口の簡単に物事をあきらめない粘り強い行動力と、とにかく印象を残したいという接客の工夫が功を奏し、半年間で結果を残すことができた。そんな、彼の人一倍優れた行動力は、仕事だけに向けられたものではない。大好きな人を振り向かせ、家庭を築く夢をも実現させた。
実は、僕の妻は大庄で敏腕店長として有名だったんです。1年間ずっと片思いをしていて、どうしても付き合いたかったから上司にも相談したりしていました。ようやく付き合えることになって1カ月後、ちょうど彼女の誕生日に、これ以上僕に渡せるものはないと思って、婚姻届を渡してプロポーズしたんです。いま考えれば、後先考えてないって思うけど(笑) 1週間後にOKの返事が来たときはうれしかったですね。どうやら、1年間ずっと告白し続けたことが強い印象に残ったみたいで。それと、結婚まで早かったので周りは驚いていました(笑) いまは娘と息子に恵まれる幸せな毎日です。しかも彼女はもともと大庄で店長をしていたから、僕の一番の相談者であり理解者です。
何事にも臆することなく突き進む彼の行動力は、賞賛に値する。一歩引いて考えるのではなく、一歩ずつ前進することで結果を残してきた山口に、次に実現させたい夢を聞いた。
夢は、独立すること。会社の独立制度を使って、妻と一緒に住宅街で主婦層をターゲットにしたお店を経営したい。小さいお店でいいので、常連さまが集まる場所にね。いま、“独立夢ノート”を書きためていて「ランチメニューにはコレを出したい」「毎月のイベントはこんなことをしたい」「お店の情報を書いたミニ新聞を作って朝駅前で配りたい」など、町全体がアットホームになるような構想が僕にはあります。最終的な目標は、娘が18歳になったとき、自分のお店でアルバイトをしてもらうことと、息子にはお店を継いでもらうこと。大庄の看板を掲げ、家族で経営できたら最高ですね。



















